in the pipeline の訳語はまだ「パイプライン」の中
pipelineはもともとガス管や水道管のことですが、転じて比喩的に「着手ずみだが、最終目的地には到達していない」状態を表します。その場合は主に
Her new book is currently in the pipeline,
Our innovation pipeline is full.
といった表現で、「開発途上」「進行中」「準備中」などと訳せるでしょう。かなりよく目にする表現ですね。
着手 → <パイプラインの中で何やら進行中> → 完成・達成
というイメージでしょうか。
本なら書きかけ、R&Dについての文脈なら研究開発中、何らかの企画・構想についてなら、それが進行中であることです。宅配便の話なら、商品を発送ずみだけどまだ到着していない状態ですね。アイデアや情報についても使うようです。
以前のエントリー(skyrocketingは「うなぎ上り」 - 主夫と翻訳)でも触れましたが、イメージが具体的に目に浮かぶような生々しい表現だから好んで使われるのでしょう。
何が進行中か詳細は見えないけど、シューシュー、トンカンと何か難しいことを一生懸命努力しています、という前向きのイメージがあるように思います。
さて、この使い方で「パイプライン」という日本語が定着しているのかというと、微妙なところです。
例えば大手の第一三共製薬のホームページには「開発パイプライン」という項目があります。しかし、まだ製薬業界など一部の業界用語に過ぎないという感じがします。
仮に前述の英文を
「彼女の新しい著書はまだパイプラインの中だ」
「当社のイノベーション・パイプラインはフル稼働中です」
と訳したら、すんなりと読める方はかなり少ないのではないでしょうか。「なにか行き詰まっていることの比喩?」と誤解されるかもしれません。
「パイプライン」というカタカナ語が、例えば「プレゼンテーション」のように日本語として定着するかどうかはまだ「パイプラインの中」だと思います。
<追記 2015/5>
就職に役立つスキルを高校・大学で教えるという文脈で
"how to improve our job pipeline"
という英文を見かけました。
ここでは高校・大学が「就職予備軍」を製造するパイプラインと表現されているわけですね。