主夫と翻訳

翻訳をしていると、日本語にするのが悩ましい言葉にたくさん出会います。検索すると、その言葉の訳語に悩んだ先人たちの声がたくさん見つかり、孤独な翻訳作業が少し楽しくなります。そして、自分もそんな言葉を残したくなりました。

"spectrum"はバラエティに富むことの比喩表現

 比喩表現は日米で違うことが多く、その場合訳し方が難しいケースもあります。

「キュウリのようにクール」(as cool as a cucumber)は村上春樹で有名になりましたが、普通はこのような訳し方はしないため、比喩表現が言葉の壁を越えて広がることはまれなのでしょう。

 

 さて、最近の流行表現なのか、よく目にするなと思う比喩の一つにspectrumがあります。これはもともと技術用語で、日本語では周波数帯域とかスペクトルとか言われるものです。というより、下の画像を見れば一目瞭然でしょう。

 

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Our innovation efforts fall along a spectrum.

We provide a spectrum of services.

 

 要するに、スペクトル図のように、虹のように、多彩で多種多様、バラエティに富んでいるということです。以前のエントリーで触れた例(skyrocketingは「うなぎ上り」 - 主夫と翻訳)と同様、ビジュアルが目に浮かぶ具体的な表現なので好まれるのだと思います。

 これを訳す場合、

 

「私たちの提供するサービスは多種多様です」

 

とすればケチの付けようはないでしょうが、なんとも色気がないですよね。

とはいえ

 

「スペクトル図のように多彩です」

 

とは訳せません。たぶん村上春樹でもそうは訳さないでしょう・・・

 

 

<追記 2015年5月>

 あるテーマについて多種多様な見解がある、という文脈で一つの極端な意見を紹介し、次に

At the other end of the spectrum, some believe....

と続く英文を見つけました。

「その対極の意見としては・・・」という感じでしょうか。