主夫と翻訳

翻訳をしていると、日本語にするのが悩ましい言葉にたくさん出会います。検索すると、その言葉の訳語に悩んだ先人たちの声がたくさん見つかり、孤独な翻訳作業が少し楽しくなります。そして、自分もそんな言葉を残したくなりました。

"one-size-fits-one" はカスタムメイドのこと

 翻訳する英文を読んでいると、ごくたま〜に原文の誤植や間違いを発見することがあります。

 日本語でも同じですが、印刷されて本や雑誌になったものにも少ないとは言えミスはあります。名前や年数を著者が間違えて思い込んでいる場合もあります。

 

 ですので、どうにも意味がわからない英文に出会った時、「もしかして書き間違い? 著者の間違い?」とついつい疑ってしまうのですが、まあ99%は結果的にそうではなく、私の知識や読解力が足りないだけです。

 

 先日も、人事評価システムに関する英文で

 

This system is one-size-fits-one ....

 

という表現に出会って、瞬間的に

「one-size-fits-all の書き間違い??」

かと思いました。

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 "one-size-fits-all" は服屋さんなどでよく見る決まり文句で、日本語でいえば「フリーサイズ」です。大きい人から小さい人まで誰にでも合うサイズですよ、という意味。

 そこから転じて、「汎用性の高い」「誰にでも使える」という一般的な意味でよく使われる表現です。

 

 で、"one-size-fits-ONE" ですが、グーグルで検索してみたら3万4000件もヒットしました。

 要するにこの言葉は、"one-size-fits-all" ではないよ!! と言いたい表現のようですね。誰にでも合うお仕着せで手抜きの方法ではなく、個人個人に合わせてパーソナライズしてますよ、という意味のようです。

 たんにpersonalized と言わずに、見慣れた"one-size-fits-all" をちょこっと変えることで、「ALLではなくONEのために」というカスタムメイドの高級感を強調する面白い表現だと思います。

 

  このように「長所や素晴らしさを訴える言葉/表現」は、広告で多用されるせいもあって、すぐに手垢がついた使い古された表現になってしまい、またすぐ新しく目を引く言葉/表現が生まれてきます。

 ある意味では、もっとも言葉が活発に生死を繰り返して進化する領域かもしれませんね。