主夫と翻訳

翻訳をしていると、日本語にするのが悩ましい言葉にたくさん出会います。検索すると、その言葉の訳語に悩んだ先人たちの声がたくさん見つかり、孤独な翻訳作業が少し楽しくなります。そして、自分もそんな言葉を残したくなりました。

to(場所)とfor(場所)の違い

前置詞は簡単なものほど意外と難しいことがあります。

省略した形で使われる場合、中核にあるニュアンスを理解してないと意味がとれないからです。

 

よく例に使われるのが"on"のコアの意味。

これは「接している」「くっついている」ことです。何かの上側だろうが下側だろうが横だろうが、ピタっと接触しているのが"on"です。

on time(時間通り)などもこのニュアンスが生きています。

 

かつて私は「どこかの場所」に向かう場合の"to"と"for"の使い分けがどうもよく分からなかったのですが、次のような中核的な意味を何かで知って、目からウロコが落ちました。

 

to  = ある場所に到達した(実際に着いた)

 

for  = ある場所に向かっている(まだ着いてない/本当にそこに着くかわからない)

 

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例えば日本に移動する場合、

 

left for Japan ・・・・・ 日本に向けて出発した(でもまだ着いてないという含みがある)

went to Japan ・・・・・ 日本に行ってきた(すでに行った)

という違いがあります。

 

「出発から到着までの行程」でも"to"と"for"でニュアンスが違います

 

the way to the nearest post  ・・・・ 現在地からポストに着くまでの全行程を意味する。到着することがポイント

 

this train is bound for Tokyo ・・・・ 現時点では、たんに「東京に向かっている」というだけで、まだまだ東京には着かない。方向として東京方面ということが重要で、実際に東京に到着することがポイントではない

 

 先日、"To Heaven and Back"という臨死体験についての本を知りました。 この"to"は「到着した」という含みがあるので、「天国に行って、帰ってきた」という意味です。この含みを知らないと、はっきりと意味が掴めなかったと思います。

 もしもこのタイトルが"For Heaven and Back"だったら、「天国に向かったけど(たどり着かずに)途中で帰ってきた」という意味になるでしょう。