"resource"の訳は時には「ヒト・モノ・カネ」でもいい
翻訳者の実力が試される単語、というのがあると思います。
例えば
resource
はその一つでしょう。
一般的には石油やガスなどの「資源」であり、より広くは水や生物種、さらには「観光資源」などもあります。
コアの意味としては「(国などが所有する)価値を生み出す源」ですね。
また、組織が所有する"resource"としては、資金や人材などの「経営資源」もあります。人事部や人材は"Human Resource"と表現されます。
さらに〝(個人が所有する)イザというとき頼れる方法〟という意味も持ち、「手段」「機転」「方策」といった訳語も辞書には必ず出ています。
War is our only resource.
さて、会社組織やビジネスに関して、この"resource"はかなりよく使われるのですが、つい「資源」という訳語になりがちです。
しかしこの日本語は石油のような天然資源のイメージが強すぎるため、どうしても形あって売り買いできるモノ、という印象を与えます。
実際には、時間や労力、人手の余裕など、無形のものを指すケースも多く、そのような場合は「資源」という訳語はしっくりとしないのです。
ここで悩まずに、条件反射のように「資源」と訳すのでは、翻訳者としての付加価値は低いでしょう。
「資源」という日本語には含まれないニュアンス、「組織が何かを成し遂げるために必要とするパワーの源泉」 を、なんとか短く適切な日本語に置き換えたいものです。
例えば組織の一部門についてなら、全社的イメージのある「経営資源」も使えないため、
The marketing section had not sufficient resources.
は
「マーケティング部門には十分な人手も時間もなかった」
または
「ヒト・モノ・カネが足りなかった」
と訳すのもアリだと思います。
よくマネジメントの仕事として
resource allocation
が出てきますが、これも
「資源配分」
とするより、文脈によっては
「経営資源の割り当て」
「ヒト・モノ・カネの適切な配分」
としたほうがいいかもしれません。
蛇足ながら私は「人的資源」という言葉が好きになれません。
すでに日本語として定着していますが、いかにも翻訳調であり、生々しい人々の働く姿がイメージできず、どうも言葉として上滑りしているように感じられるからです。まあ、他に適切な言葉がないから使ってしまうんですけどね・・・