主夫と翻訳

翻訳をしていると、日本語にするのが悩ましい言葉にたくさん出会います。検索すると、その言葉の訳語に悩んだ先人たちの声がたくさん見つかり、孤独な翻訳作業が少し楽しくなります。そして、自分もそんな言葉を残したくなりました。

"career year"はスポーツ選手の「最高に活躍したシーズン」

よく見る表現というわけではないのですが、 たまたまスポーツ選手についての話で He was enjoying a career year. という一文があって、この"career year"の意味がなかなかわかりませんでした。 "career" も"year"もよく使われる簡単な単語だけに、何を指す…

"mind"は「こころ」や「精神」でなく「知性」──なぜなら脳にあるから

mind, heart, soul, spirit はいずれも「人間のこころ/精神」に関係する言葉ですが、四つも言葉があるのはもちろんそれぞれに指すものが違うからです。 その中で、最も日本語と意味がずれているのが"mind"ではないでしょうか。 "mind"を英和辞書で引くと、 …

"a"か"the"か「なし」か──冠詞についての考察(1)

Amazonで「冠詞」と検索すると、冠詞についての参考書や研究書がずらっ〜と登場します。 それだけ日本人にとって「わかりにくく、奥が深い」のが冠詞なのでしょう。 私も翻訳をするようになって、ずいぶん冠詞を意識するようになり、冠詞に悩まされた…

"work out of home"は、自宅で仕事をする「在宅勤務」の意味

私は今まで知らなかったのですが、 work out of (one's) home というのは 「自宅で仕事をする」 という意味の定型表現です。 "out of 〜" には、「〜から外に出る」という意味があるので 「家を出て外で働く」という意味かと間違えそうですし、さらに work o…

"resource"の訳は時には「ヒト・モノ・カネ」でもいい

翻訳者の実力が試される単語、というのがあると思います。 例えば resource はその一つでしょう。 一般的には石油やガスなどの「資源」であり、より広くは水や生物種、さらには「観光資源」などもあります。 コアの意味としては「(国などが所有する)価値を…

"more than"を「以上」とするのは誤訳か?

数の習慣的な扱い方は日英でけっこう違うので面倒くさいです。 例えば 「日本では何歳から大人とみなされますか」 という質問に、日本語なら 「20歳以上です」 と答えるのが自然です。 「大人」の最小年齢を引き合いにだすわけです。 ところが同じ内容を英…

最近よく見る"playbook"は要するに「定石集」かつ「マル秘作戦ノート」

ビジネス分野の英文で最近ひんぱんに見かける言葉に playbook があります。 辞書には 「台本/脚本」 「キャンペーンの計画書」 「アメフトで使う作戦ノート」 などとありますが、どれもしっくりきません。 There is no playbook to tell you what to do. Th…

スラングの"hack"は「難題にうまく対処するコツ」

シリコンバレーの著名人のインタビューを訳していたら how to hack the challenge they know a lot of hacks といった表現をしていました。 一つ目は動詞、二つ目は名詞ですね。 "hack"はもともと 「斧でたたき切る」 「切り刻んで台無しにする」 なんて意味…

"the art and science"は「教養課程」ではなく「理論と実践」

いわば定型句のような使い方で the art and science of ◯◯◯ という表現をよく目にします。 (順序が逆で"the science and art"もアリ) この場合、scienceは「科学」というよりも「体系化された理論、理屈」であり artは「芸術」というよりも「理論化できない…

重力波を観測したぞ!

今日、100年前にアインシュタインが予言した「重力波(gravity waves)」が実際に観測された、というニュースが流れました。 NHKによると 研究チームを率いるカリフォルニア工科大学のデビッド・ライツィー教授は会見の冒頭で「重力波を観測したぞ!」…

"include"を「含む」と訳していいケースは少ない

Asian countries including Japan... big companies including GE and IBM... といった文章をよく目にします。 この including を「含む」と訳して 「日本を含めたアジア諸国」 「GEやIBMを含めた大企業」 としても誤訳ではありません。 でも実はだいぶ…

"incumbent"は「新興」企業に対する「既存」企業を指す

最近目につくな〜、と気になる単語の一つに incumbent があります。 辞書には「現職の」という意味しか出ていないのですが、 私が目にするのは100%例外なく 「既存の」(昔ながらの、歴史ある大手企業)という意味で使われています。 the incumbents (…

"just a few clicks away"の意味は、2〜3回マウスをクリックするだけでわかる

テクノロジーがテーマの文章でよく目にする決まり文句に just a few clicks away があります。 Access to the universe of knowledge is just a few clicks a way. Our fresh farm products are just a few clicks away. 「わずか2〜3回クリックするだけで…

"dispute that" は that以下を否定している

He disputed that she was guilty. という文に出会いました。 disputeは、言い争う、議論・反論するといった意味ですが、主に他動詞として使われるようで、自動詞としてthat説をとることは少ないみたいです。 で、ここで問題となるのは、that以下の内容を主…

"speed down" は速度を上げる?

ある本で "Speeding down this fast lane" という表現に出会いました。 日本語化している「スピード・ダウン」にぴっぱられて、一瞬 「速度を落とす」のかと思いましたが、 本当の意味は 「この追い越し車線を高速で行く」 でした。 というのも、 speed down…

"the case for〜"は「正当化」や「裏付け」「弁護」すること

イデオムとして辞書に出ていないのですが the case for 〜 という表現はけっこうよく見るし、三単語でセットになってイデオム的な使い方をされています。 The case for Peace He made the case for the criminals. case はひじょ〜に幅広い意味を持つ単語で…

"Thinker" と "Law Maker" と "Philosopher"

英語のクセというのでしょうか、日本語にはない特徴として "動詞+ er "で「〜する人」という表現を好む ことが挙げられると思います。 日本語でぴったり対応する名詞(〜者、〜士、〜員など)があればいいのですが、ない場合は悩みます。 よく見る例が国会議…

"more"の訳は「より多くの」でいいのか?

英語は日本語と比べ、比較級をよく使う言語だと思います。 more peole a higher purpose a better idea more closely poorer countries これらをいちいち日本語訳でも比較級にすると、相当にうるさく感じます。 「より多くの人々」 「より高い目標」 「より…

生産性を上げる小技(その1)

(注) その2、があるかどうかはわかりません。 フリーランスで仕事をするようになって、サラリーマン時代と一番自分が変わった点は、「仕事の生産性」を意識するようになったことです。 なにしろサラリーマンは一定時間は職場にいる必要があるので、生産性…

to(場所)とfor(場所)の違い

前置詞は簡単なものほど意外と難しいことがあります。 省略した形で使われる場合、中核にあるニュアンスを理解してないと意味がとれないからです。 よく例に使われるのが"on"のコアの意味。 これは「接している」「くっついている」ことです。何かの上側だろ…

"one-size-fits-one" はカスタムメイドのこと

翻訳する英文を読んでいると、ごくたま〜に原文の誤植や間違いを発見することがあります。 日本語でも同じですが、印刷されて本や雑誌になったものにも少ないとは言えミスはあります。名前や年数を著者が間違えて思い込んでいる場合もあります。 ですので、…

新しい意味の"engagement"は「絆」や「愛着」と訳せる

言葉の中には、時と共に意味が変わったり、新たな意味が加わったりするものがあります。これは日本語でも英語でも同じ。 "engagement"は、もともと幅広い意味があるうえに、最近ビジネス用語として特殊な意味が新たに加わったので、いっそうややこしくなった…

翻訳者の年収

多くの方の関心があるであろう「フリーランス翻訳者の年収」について書こうと思います。 2014年、私の年収は450万円ほどでした(税引き前)。これはおそらくフリーランスとしてはまずまずだと思います。しかしその前年(2013年)は200万円台前…

"invest"は「投資する」とは限らない

以前、"identify"を例外なく「特定」と訳すのはおかしいと書きましたが(identifyを特定する - 主夫と翻訳)、同じように"invest"を何が何でも「投資」と訳している例をけっこう目にします。これも無理があります。 日本語の「投資」はお金に密着したイメー…

助動詞に近い"help"はいちいち「助ける」と訳さない?

helpという動詞には特殊な用法があり、まるで助動詞のように使われることがあるようです。 もちろん Help me! のhelpは単純に「助ける」という動詞なのですが、次の例はどうでしょう? You should help others understand yourself. to help tackle the prob…

Rolodexは「(すごい)人脈」のアイコン

たまーに見かける表現に use one's Rolodex というのがあります。 ローロデックスは卓上の回転式カードホルダーですが、米国のオフィスでは日常的なもののようです。セロハンテープなどと同じで特定企業の商品名ですがポピュラーすぎて一般名詞化しています…

"functional area"は「部門」と訳すべきです

ビジネスの文脈で普通に出てくる言葉に functional area があります。 これを「機能領域」と訳しているケースをけっこう目にしますが、どうなんでしょうか・・・ 「真に優れた社員はさまざまな機能領域で活躍できる」 ・・・・いまいちピンときません。 企業…

"scalable"なビジネスは売上げ急増に耐えられるキャパシティを持つ

最近たまにビジネス関係の文章で目にするキーワードが scalability (名詞) です。 形容詞だと scalable 動詞だと scale (目的語をとらない自動詞です) You need to enhance scalability of your business. We have a scalable business model. Campanies…

"packaged goods"は写真で一目瞭然

ちょっとビジネスっぽい用語ですが、 (consumer) packaged goods はよく目にします。 "CPG"なんて省略されることもあります。 これを「包装品」「パッケージ商品」などと訳している例をみますが、何のことかわかります? 普通は使わない日本語なので、イ…

(be) all about は「要するに」とまとめたい

これも本当に日本語化が悩ましい表現です。それ以前に、英文で意味を正確に理解するのも難しい時があります。 ただし、all about にも二種類あって、簡単なほうは「all」が主役。 I know all about him. 「私は彼のすべてを知っている」 素直にそのままです…

とても重要なのに、学校で習う英語では決して教えてもらえないこと(3)

日本語は、どんなに長い文章でも最後の数文字で意味が全部ひっくり変えることが普通にあります。これは通常の英語ではありえません。 例えば次の文章は最後の三文字が文全体の意味を一〇〇%左右します。(例文なので書いた内容はウソです・・・) 好きな女…

自動詞の"argue"はケンカ腰でなく、ただ自分の意見があることを表す

私だけかもしれませんが、昔から argue = 異議を唱える、反論する という思い込みがありました。ケンカ腰の態度で臨むような・・・ しかし実際に英文を読んでいると、argueが「異議、反論」といったネガティブな意味を持つことは半分もない感じです。 あとの…

"Linchpin"はカタカナ語になるか?

ひんぱんではないものの、何度かビジネス関係の記事で見かけた気になる言葉に"linchpin"があります。 He is the linchpin of our team. Talent management is a linchpin to growth. 元来の意味は、車輪が車軸からはずれないよう支える「輪止め」です。 そこ…

機械翻訳が今後も主流にならないのは"Yes"を訳せないから

"Yes"をどう訳しますか? これが大学入試なら、答えは「はい」しかないでしょう。それで100点。それ以外はバツだと思います。 でも、まともな翻訳者にこの質問をしたら、「答えられない」と言うと思います。 なぜなら、この"Yes"が「はい」なのか「ええ」…

『アナと雪の女王』の歌詞を英語で理解してみよう

以前、『アナと雪の女王』についてのエントリーを書きましたが(「アナと雪の女王」の歌詞の翻訳はすごい - 主夫と翻訳)、実は今まで映画は観ていませんでした。 先日、ついにきちんと映画を観たのですが、この主題歌のシーンで涙が止まりませんでした。エ…

"spectrum"はバラエティに富むことの比喩表現

比喩表現は日米で違うことが多く、その場合訳し方が難しいケースもあります。 「キュウリのようにクール」(as cool as a cucumber)は村上春樹で有名になりましたが、普通はこのような訳し方はしないため、比喩表現が言葉の壁を越えて広がることはまれなので…

"make sure"は「確かめる」では足りない(こともある)

ひんぱんに使われる言い回しなのに、なんとも日本語に訳しにくいな、といつも思うのが"make sure"です。 私の感覚で言うと、make sureには大きく二種類あって、一つは「確かめる」「確認する」ですっきり訳せるmake sureです。以下のようなケース。 I made s…

"get traction"は「弾みがつく」

これもきちんとした辞書には出てない、一種の流行言葉というか、使う人はよく使うし、使わない人はまったく使わない言い回しです。 This idea has not got traction yet. How to get traction with new services 日本語で「トラクション」というと車好きな人…

とても重要なのに、学校で習う英語では決して教えてもらえないこと(2)

lookを使った以下の表現にはすべて、熟語のような具体的な意味が一つあります。全部わかりますか? (答えは最後にまとめます) look into look up to look up look down on look at look after look for look to look forward to look out look over このよ…

take-away には「そこから得られる教訓」という意味もある

take away は普通「お持ち帰り」「テイクアウト」「取り除く」「控除」などの意味ですが、 「そこから得られる教訓」 という意味の名詞で使うこともあるようです。 手持ちの英和辞書にも英英辞書にも出ていない意味なので、かなり変化球の使い方だとは思いま…

とても重要なのに、学校で習う英語では決して教えてもらえないこと(1)

とても重要なのに、学校で習う英語では決して教えてもらえないことがいくつもあると思います。 例えば<句動詞>という非常に分かりにくい日本語名を付けられたphrasal verbeはその代表でしょう。(これについては後日書きたいと思います) それとは別に、意…

in the pipeline の訳語はまだ「パイプライン」の中

pipelineはもともとガス管や水道管のことですが、転じて比喩的に「着手ずみだが、最終目的地には到達していない」状態を表します。その場合は主に Her new book is currently in the pipeline, Our innovation pipeline is full. といった表現で、「開発途上…

technicallyの訳は技術的に難しい

頻出、とまでは言えないものの、時々みかける表現"technically"は、大変訳しづらい言葉です。 この言葉は大別すると二種類の用法があり、一つは「技術的に」という意味で、なんら難しくありません。そのまま「技術的に」と訳せばOK。 やっかいなのはもう一…

youを「あなた」と訳すのは誤訳?

前回のエントリーに引き続き、 もう一つ、英語と日本語の最大の違いを挙げるとすれば、 「英語は人称代名詞なしでは会話や文章が成立しないが、日本語では使わないほうが自然」 という点があるように思います。特に二人称ですね。 人称代名詞とは、Iとかyou…

英語は「不可算名詞」の扱いが苦手

英語と日本語の最大の違いは何だと思いますか? いくつかの答えがあり得ると思いますが、 「英語は『何個か』という数を抜きにモノを考えられない。日本語は数を無視してモノを考えられる」 というのは一つの答えだと思います。例えば 「あそこに猫がいる」 …

ダッシュで逃げるのは悪ガキだけではない

"──"のことです。 最初と最後を"──"で囲んで、追加情報的な文や言葉を挿入します。 Ordinary people ── like you and me ── do not have private jets. わざわざ関係代名詞を使ったり、二つの文に分けたりするほど大げさにしたくない、ちょっとしたついでの…

ドラッカーで有名な上田惇生さんは、effectiveを成果と訳した

ひょんなことから私が翻訳の仕事をすることになった時、まず最初にしたのは、有名な翻訳書の原書と訳本を読み比べてみることでした。 『ビジョナリー・カンパニー』(山岡洋一訳)とか『経営者の条件』(上田惇生訳)などです。 そこでいきなりショックを受…

teamを「チーム」と訳して良いのか?

英語のteamは、日本語化した「チーム」と基本的に同じ意味だと思います。 しかし、組織の文脈で出てきた場合に「チーム」と訳すと、意味は通じるものの、いかにも不自然な翻訳調になることがあります。 Mr.Nagashima and his team did a great job! 「長嶋さ…

feedback を「フィードバック」と訳して良いのか?

もともとの意味は「結果」が「原因」に影響を与えることです。 例えば、運転中にハンドルを切りすぎた結果を見て、あわてて運転者がハンドルを戻すことなんかも「フィードバック」と言えるでしょう。 コンピュータのアルゴリズムの結果を見て、それを頼りに…

skyrocketingは「うなぎ上り」

よく見ますね、これ。 天に向けて真っ直ぐ高速で飛んでいくロケット(花火)のように「急上昇」することです。skyrocketで名詞かつ動詞ですが、skyrocketing ◯◯ と形容詞的に使われることが多いようです。 生き生きして派手な表現なので、新聞・雑誌の見出し…