主夫と翻訳

翻訳をしていると、日本語にするのが悩ましい言葉にたくさん出会います。検索すると、その言葉の訳語に悩んだ先人たちの声がたくさん見つかり、孤独な翻訳作業が少し楽しくなります。そして、自分もそんな言葉を残したくなりました。

2015-01-01から1年間の記事一覧

"include"を「含む」と訳していいケースは少ない

Asian countries including Japan... big companies including GE and IBM... といった文章をよく目にします。 この including を「含む」と訳して 「日本を含めたアジア諸国」 「GEやIBMを含めた大企業」 としても誤訳ではありません。 でも実はだいぶ…

"incumbent"は「新興」企業に対する「既存」企業を指す

最近目につくな〜、と気になる単語の一つに incumbent があります。 辞書には「現職の」という意味しか出ていないのですが、 私が目にするのは100%例外なく 「既存の」(昔ながらの、歴史ある大手企業)という意味で使われています。 the incumbents (…

"just a few clicks away"の意味は、2〜3回マウスをクリックするだけでわかる

テクノロジーがテーマの文章でよく目にする決まり文句に just a few clicks away があります。 Access to the universe of knowledge is just a few clicks a way. Our fresh farm products are just a few clicks away. 「わずか2〜3回クリックするだけで…

"dispute that" は that以下を否定している

He disputed that she was guilty. という文に出会いました。 disputeは、言い争う、議論・反論するといった意味ですが、主に他動詞として使われるようで、自動詞としてthat説をとることは少ないみたいです。 で、ここで問題となるのは、that以下の内容を主…

"speed down" は速度を上げる?

ある本で "Speeding down this fast lane" という表現に出会いました。 日本語化している「スピード・ダウン」にぴっぱられて、一瞬 「速度を落とす」のかと思いましたが、 本当の意味は 「この追い越し車線を高速で行く」 でした。 というのも、 speed down…

"the case for〜"は「正当化」や「裏付け」「弁護」すること

イデオムとして辞書に出ていないのですが the case for 〜 という表現はけっこうよく見るし、三単語でセットになってイデオム的な使い方をされています。 The case for Peace He made the case for the criminals. case はひじょ〜に幅広い意味を持つ単語で…

"Thinker" と "Law Maker" と "Philosopher"

英語のクセというのでしょうか、日本語にはない特徴として "動詞+ er "で「〜する人」という表現を好む ことが挙げられると思います。 日本語でぴったり対応する名詞(〜者、〜士、〜員など)があればいいのですが、ない場合は悩みます。 よく見る例が国会議…

"more"の訳は「より多くの」でいいのか?

英語は日本語と比べ、比較級をよく使う言語だと思います。 more peole a higher purpose a better idea more closely poorer countries これらをいちいち日本語訳でも比較級にすると、相当にうるさく感じます。 「より多くの人々」 「より高い目標」 「より…

生産性を上げる小技(その1)

(注) その2、があるかどうかはわかりません。 フリーランスで仕事をするようになって、サラリーマン時代と一番自分が変わった点は、「仕事の生産性」を意識するようになったことです。 なにしろサラリーマンは一定時間は職場にいる必要があるので、生産性…

to(場所)とfor(場所)の違い

前置詞は簡単なものほど意外と難しいことがあります。 省略した形で使われる場合、中核にあるニュアンスを理解してないと意味がとれないからです。 よく例に使われるのが"on"のコアの意味。 これは「接している」「くっついている」ことです。何かの上側だろ…

"one-size-fits-one" はカスタムメイドのこと

翻訳する英文を読んでいると、ごくたま〜に原文の誤植や間違いを発見することがあります。 日本語でも同じですが、印刷されて本や雑誌になったものにも少ないとは言えミスはあります。名前や年数を著者が間違えて思い込んでいる場合もあります。 ですので、…

新しい意味の"engagement"は「絆」や「愛着」と訳せる

言葉の中には、時と共に意味が変わったり、新たな意味が加わったりするものがあります。これは日本語でも英語でも同じ。 "engagement"は、もともと幅広い意味があるうえに、最近ビジネス用語として特殊な意味が新たに加わったので、いっそうややこしくなった…

翻訳者の年収

多くの方の関心があるであろう「フリーランス翻訳者の年収」について書こうと思います。 2014年、私の年収は450万円ほどでした(税引き前)。これはおそらくフリーランスとしてはまずまずだと思います。しかしその前年(2013年)は200万円台前…

"invest"は「投資する」とは限らない

以前、"identify"を例外なく「特定」と訳すのはおかしいと書きましたが(identifyを特定する - 主夫と翻訳)、同じように"invest"を何が何でも「投資」と訳している例をけっこう目にします。これも無理があります。 日本語の「投資」はお金に密着したイメー…