主夫と翻訳

翻訳をしていると、日本語にするのが悩ましい言葉にたくさん出会います。検索すると、その言葉の訳語に悩んだ先人たちの声がたくさん見つかり、孤独な翻訳作業が少し楽しくなります。そして、自分もそんな言葉を残したくなりました。

2014-01-01から1年間の記事一覧

助動詞に近い"help"はいちいち「助ける」と訳さない?

helpという動詞には特殊な用法があり、まるで助動詞のように使われることがあるようです。 もちろん Help me! のhelpは単純に「助ける」という動詞なのですが、次の例はどうでしょう? You should help others understand yourself. to help tackle the prob…

Rolodexは「(すごい)人脈」のアイコン

たまーに見かける表現に use one's Rolodex というのがあります。 ローロデックスは卓上の回転式カードホルダーですが、米国のオフィスでは日常的なもののようです。セロハンテープなどと同じで特定企業の商品名ですがポピュラーすぎて一般名詞化しています…

"functional area"は「部門」と訳すべきです

ビジネスの文脈で普通に出てくる言葉に functional area があります。 これを「機能領域」と訳しているケースをけっこう目にしますが、どうなんでしょうか・・・ 「真に優れた社員はさまざまな機能領域で活躍できる」 ・・・・いまいちピンときません。 企業…

"scalable"なビジネスは売上げ急増に耐えられるキャパシティを持つ

最近たまにビジネス関係の文章で目にするキーワードが scalability (名詞) です。 形容詞だと scalable 動詞だと scale (目的語をとらない自動詞です) You need to enhance scalability of your business. We have a scalable business model. Campanies…

"packaged goods"は写真で一目瞭然

ちょっとビジネスっぽい用語ですが、 (consumer) packaged goods はよく目にします。 "CPG"なんて省略されることもあります。 これを「包装品」「パッケージ商品」などと訳している例をみますが、何のことかわかります? 普通は使わない日本語なので、イ…

(be) all about は「要するに」とまとめたい

これも本当に日本語化が悩ましい表現です。それ以前に、英文で意味を正確に理解するのも難しい時があります。 ただし、all about にも二種類あって、簡単なほうは「all」が主役。 I know all about him. 「私は彼のすべてを知っている」 素直にそのままです…

とても重要なのに、学校で習う英語では決して教えてもらえないこと(3)

日本語は、どんなに長い文章でも最後の数文字で意味が全部ひっくり変えることが普通にあります。これは通常の英語ではありえません。 例えば次の文章は最後の三文字が文全体の意味を一〇〇%左右します。(例文なので書いた内容はウソです・・・) 好きな女…

自動詞の"argue"はケンカ腰でなく、ただ自分の意見があることを表す

私だけかもしれませんが、昔から argue = 異議を唱える、反論する という思い込みがありました。ケンカ腰の態度で臨むような・・・ しかし実際に英文を読んでいると、argueが「異議、反論」といったネガティブな意味を持つことは半分もない感じです。 あとの…

"Linchpin"はカタカナ語になるか?

ひんぱんではないものの、何度かビジネス関係の記事で見かけた気になる言葉に"linchpin"があります。 He is the linchpin of our team. Talent management is a linchpin to growth. 元来の意味は、車輪が車軸からはずれないよう支える「輪止め」です。 そこ…

機械翻訳が今後も主流にならないのは"Yes"を訳せないから

"Yes"をどう訳しますか? これが大学入試なら、答えは「はい」しかないでしょう。それで100点。それ以外はバツだと思います。 でも、まともな翻訳者にこの質問をしたら、「答えられない」と言うと思います。 なぜなら、この"Yes"が「はい」なのか「ええ」…

『アナと雪の女王』の歌詞を英語で理解してみよう

以前、『アナと雪の女王』についてのエントリーを書きましたが(「アナと雪の女王」の歌詞の翻訳はすごい - 主夫と翻訳)、実は今まで映画は観ていませんでした。 先日、ついにきちんと映画を観たのですが、この主題歌のシーンで涙が止まりませんでした。エ…

"spectrum"はバラエティに富むことの比喩表現

比喩表現は日米で違うことが多く、その場合訳し方が難しいケースもあります。 「キュウリのようにクール」(as cool as a cucumber)は村上春樹で有名になりましたが、普通はこのような訳し方はしないため、比喩表現が言葉の壁を越えて広がることはまれなので…

"make sure"は「確かめる」では足りない(こともある)

ひんぱんに使われる言い回しなのに、なんとも日本語に訳しにくいな、といつも思うのが"make sure"です。 私の感覚で言うと、make sureには大きく二種類あって、一つは「確かめる」「確認する」ですっきり訳せるmake sureです。以下のようなケース。 I made s…

"get traction"は「弾みがつく」

これもきちんとした辞書には出てない、一種の流行言葉というか、使う人はよく使うし、使わない人はまったく使わない言い回しです。 This idea has not got traction yet. How to get traction with new services 日本語で「トラクション」というと車好きな人…

とても重要なのに、学校で習う英語では決して教えてもらえないこと(2)

lookを使った以下の表現にはすべて、熟語のような具体的な意味が一つあります。全部わかりますか? (答えは最後にまとめます) look into look up to look up look down on look at look after look for look to look forward to look out look over このよ…

take-away には「そこから得られる教訓」という意味もある

take away は普通「お持ち帰り」「テイクアウト」「取り除く」「控除」などの意味ですが、 「そこから得られる教訓」 という意味の名詞で使うこともあるようです。 手持ちの英和辞書にも英英辞書にも出ていない意味なので、かなり変化球の使い方だとは思いま…

とても重要なのに、学校で習う英語では決して教えてもらえないこと(1)

とても重要なのに、学校で習う英語では決して教えてもらえないことがいくつもあると思います。 例えば<句動詞>という非常に分かりにくい日本語名を付けられたphrasal verbeはその代表でしょう。(これについては後日書きたいと思います) それとは別に、意…

in the pipeline の訳語はまだ「パイプライン」の中

pipelineはもともとガス管や水道管のことですが、転じて比喩的に「着手ずみだが、最終目的地には到達していない」状態を表します。その場合は主に Her new book is currently in the pipeline, Our innovation pipeline is full. といった表現で、「開発途上…

technicallyの訳は技術的に難しい

頻出、とまでは言えないものの、時々みかける表現"technically"は、大変訳しづらい言葉です。 この言葉は大別すると二種類の用法があり、一つは「技術的に」という意味で、なんら難しくありません。そのまま「技術的に」と訳せばOK。 やっかいなのはもう一…

youを「あなた」と訳すのは誤訳?

前回のエントリーに引き続き、 もう一つ、英語と日本語の最大の違いを挙げるとすれば、 「英語は人称代名詞なしでは会話や文章が成立しないが、日本語では使わないほうが自然」 という点があるように思います。特に二人称ですね。 人称代名詞とは、Iとかyou…

英語は「不可算名詞」の扱いが苦手

英語と日本語の最大の違いは何だと思いますか? いくつかの答えがあり得ると思いますが、 「英語は『何個か』という数を抜きにモノを考えられない。日本語は数を無視してモノを考えられる」 というのは一つの答えだと思います。例えば 「あそこに猫がいる」 …

ダッシュで逃げるのは悪ガキだけではない

"──"のことです。 最初と最後を"──"で囲んで、追加情報的な文や言葉を挿入します。 Ordinary people ── like you and me ── do not have private jets. わざわざ関係代名詞を使ったり、二つの文に分けたりするほど大げさにしたくない、ちょっとしたついでの…

ドラッカーで有名な上田惇生さんは、effectiveを成果と訳した

ひょんなことから私が翻訳の仕事をすることになった時、まず最初にしたのは、有名な翻訳書の原書と訳本を読み比べてみることでした。 『ビジョナリー・カンパニー』(山岡洋一訳)とか『経営者の条件』(上田惇生訳)などです。 そこでいきなりショックを受…

teamを「チーム」と訳して良いのか?

英語のteamは、日本語化した「チーム」と基本的に同じ意味だと思います。 しかし、組織の文脈で出てきた場合に「チーム」と訳すと、意味は通じるものの、いかにも不自然な翻訳調になることがあります。 Mr.Nagashima and his team did a great job! 「長嶋さ…

feedback を「フィードバック」と訳して良いのか?

もともとの意味は「結果」が「原因」に影響を与えることです。 例えば、運転中にハンドルを切りすぎた結果を見て、あわてて運転者がハンドルを戻すことなんかも「フィードバック」と言えるでしょう。 コンピュータのアルゴリズムの結果を見て、それを頼りに…

skyrocketingは「うなぎ上り」

よく見ますね、これ。 天に向けて真っ直ぐ高速で飛んでいくロケット(花火)のように「急上昇」することです。skyrocketで名詞かつ動詞ですが、skyrocketing ◯◯ と形容詞的に使われることが多いようです。 生き生きして派手な表現なので、新聞・雑誌の見出し…

corner officeは、偉い人の象徴

偉い人を暗示するアイコンは、けっこういろいろあります。 「マホガニー製のデスク」「メルセデスベンツ」「葉巻」「秘書」「プライベートジェット」「肖像画」「銅像」などなど、いずれも世界共通のイメージがあると思います(私は偉い人に縁がないのでイメ…

dimensionにはやっかいな「側面」がある

3D(三次元)の"D"はdimension。元々の意味は「タテ・ヨコ・高さ」を表す「寸法」で、家電などのパンフレットには必ず Product Dimensions 40 x 15 x 20 inches なんて表記があります。ここから発展して、「大きさ」「容量」「重要性」「女性のスリーサイ…

辞書に載っていないmetricsは「評価基準」

ビジネスの文脈で"metrics"という言葉は、たいがい「評価基準」または「指標」という意味で使われるようです。 incentives and metrics to reinforce behavior detailed metrics on performance right metrics to measure those risks ところが、私の手元に…

resilientは腰のあるうどん?

ビジネス関係でよく使われる形容詞に"resilient"があります。 ダメージを受けても素早く回復する能力があることを指し、「強靱な」「弾力性に富む」「回復力のある」「復元力のある」などと訳されますが、どれも言い足りないというか、ニュアンスを日本語に…