主夫と翻訳

翻訳をしていると、日本語にするのが悩ましい言葉にたくさん出会います。検索すると、その言葉の訳語に悩んだ先人たちの声がたくさん見つかり、孤独な翻訳作業が少し楽しくなります。そして、自分もそんな言葉を残したくなりました。

resilientは腰のあるうどん?

 ビジネス関係でよく使われる形容詞に"resilient"があります。

 ダメージを受けても素早く回復する能力があることを指し、「強靱な」「弾力性に富む」「回復力のある」「復元力のある」などと訳されますが、どれも言い足りないというか、ニュアンスを日本語にしにくい言葉ですね。

 

How to make a resilient organizetion. 

 

 なんて使い方をされています。低反発ウレタンとか、ポキリと折れない柳とか、そんなイメージで、「柔よく剛を制す」と通じるものがあります。

 

 こなれた訳語を集めたことで有名な「ビジネス技術実用英語大辞典」では、<意訳>と断ったうえで「腰のある」と訳しています。さすが・・・

a soft but resilient noodle 柔らかいながらも弾力性のある麺; (意訳)しなやかだが(*もちもちとした歯ごたえがある)腰のあるうどん

 

 resilienceは一種の強さですが、正反対の弱さを表す"vulnerable"も非常に訳しにくい言葉です。そしてビジネスの文脈でもよく使われます。

 

the most vulnerable members of the community 

 

 「弱い」「脆い」ということですが、「平時はいいけど攻撃を受けたら真っ先に陥落する部分」とか「いかにも悪人の犠牲になりそう」とか、潜在的な可能性まで含んだ弱さだと思います。意訳すれば「伸びきってしまったうどん」?

 

追記(2014年10月)

 このエントリーを書いたのは半年前ですが、最近になって「レジリエンス」という日本語が新たなビジネスのキーワードとして注目されているように感じます。「レジリエンス」という言葉を題名に入れた本もいくつか出版されてます。

 結局、日本語にないこの言葉のニュアンスをいかすため、「コミットメント」などと同様にカタカナ化で定着するのかもしれませんね。