主夫と翻訳

翻訳をしていると、日本語にするのが悩ましい言葉にたくさん出会います。検索すると、その言葉の訳語に悩んだ先人たちの声がたくさん見つかり、孤独な翻訳作業が少し楽しくなります。そして、自分もそんな言葉を残したくなりました。

とても重要なのに、学校で習う英語では決して教えてもらえないこと(2)

lookを使った以下の表現にはすべて、熟語のような具体的な意味が一つあります。全部わかりますか? (答えは最後にまとめます)

 

look into

look up to

look up

look down on

look at

look after

look for

look to

look forward to

look out

look over 

 

 このように

 <簡単な基本動詞> + <ありふれた前置詞>

の組み合わせで、特定の動作・意味を表す使い方をphrasal verbe(句動詞)と言います。重要なのは、

8割方決まっている特別な意味が1つだけある

ということです。

 英語は、この句動詞が大好きです。ものすごくたくさん出てきます。同じ意味を表す別の難しい動詞があっても、句動詞を使うことが多いのです。

 

 例えば look intoは「調べる」という意味ですが、investigateでもいいわけです。同じ意味を表すちゃんとした動詞があるのに、わざわざ簡単な基本単語の句動詞を使う理由は、ずばり

柔らかくてくだけた感じがするから

だと思います。

 

 日本語でも

「この件について調べてもらえる?」

というのと

「この件について調査してもらえる?」

というのでは、後者のほうが重々しくて重大な感じがしますよね。

「確認する」ではなく「確かめる」

「通知する」ではなく「知らせる」

などと同じように、大げさではなく気楽な感じで伝えるために句動詞が多用されるのだと思います。

 逆にまったく句動詞を使わないで、investigateだとかrespectだとかsuperviseとかいう動詞ばかり使うと、政府公文書や学術論文みたいな堅苦しい感じがするでしょう。

 

 句動詞は大半がやさしい基本動詞と見慣れた前置詞の組み合わせですが、そのセットが特別の意味を持つという前知識を持っていないと、意味を推論することができません。

 だから、「知らない単語は一つもないのに意味が分からない」という状況が生まれるのです。

 この句動詞は、これほど頻繁に使われるうえに、事前に意味を知っておかないとその場で推理できないという性質上、学校英語でみっちりお勉強する価値が高いと思うのですが、なぜか教えてくれません。私も卒業後に独学で覚えました。

 ぼんやりと「英語にも熟語的な組み合わせがあるんだな」程度の認識ではなく、しっかりと「英語にはphrasal verbという特殊な用法があり、これは暗記しておかねばならない」という認識を持たないと、覚えきれるものではありません。

 

 takeもいろいろな句動詞があります。

 例えばtake onは「戦う、対戦する」という意味があります。takeは基本的で幅広い動詞だし、onもひんぱんに使われるので、take onが100%必ず「対戦する」になるとは限りません。

 しかし、take onときたら、半分以上はその句動詞として使われていると考えていいくらいだと思います。

 繰り返しますが、

1)take onには「対戦する」という意味がある、と知らなければ、絶対にその意味をtake とon から推測できません

2)非常によく使われます

 この二つのことからも、句動詞の勉強が大事だと言えると思います。漫然と覚えていくのではなく、ある時期に集中して暗記してしまうほうが効率的です。数が多いといっても百個から数百だと思うので。

  アマゾンで"phrasal verb"で検索すれば、テキストや専門辞書がたくさん見つかります。

 

 最後に、冒頭のクイズの答えです。

 念のためですが、その動詞+その前置詞で、例外なくその意味になるわけではありません。その確率が高い(場合によっては九割以上)ということです。

 

look into =調べる、調査する

look up to =尊敬する

look up =(辞書などで)調べる、参照する

look down on =見下す

look at =注目する、目を向ける

look after =世話をする

look for =探す

look to =当てにする、頼る

look forward to =楽しみにする

look out =気をつける

look over  =一覧する、ざっと目を通す