"the art and science"は「教養課程」ではなく「理論と実践」
いわば定型句のような使い方で
the art and science of ◯◯◯
という表現をよく目にします。
(順序が逆で"the science and art"もアリ)
この場合、scienceは「科学」というよりも「体系化された理論、理屈」であり
artは「芸術」というよりも「理論化できない技、術、勘、職人芸」みたいなものです。
相反する二つをセットにした定型句で、"the" はこの二つをセットにまとめています。
この二つをまとめないで
Is management an art or science?
Cooking: Art or Science?
なんて表現もよく見ます。
「理論」なのか「勘・個人の技」なのか? ということですね。
ですから私は、"the"でセットになった"the art and science"の訳としては、多少意訳ながら
「理論と実践」
がぴったりではないかと思います。相反する二つをセットにしてるわけですから。
より厳密に訳せば
「理論と実務」
「理論と技術」
なんてのもありかもしれません。
一方、二つをまとめないで複数形にした
arts and science(s)
という表現もあり、これは学問分野としての「人文科学(arts)と自然科学(sciences)」、または「文系と理系」「(まとめて)教養課程」を指すようです。
結局、"science"は「体系化された理論」「科学」でぴったりなのですが、「理論化できない職人芸」を意味する"art"のほうはぴったり対応する日本語がないのでややこしくなるのでしょうね
重力波を観測したぞ!
今日、100年前にアインシュタインが予言した「重力波(gravity waves)」が実際に観測された、というニュースが流れました。
NHKによると
研究チームを率いるカリフォルニア工科大学のデビッド・ライツィー教授は会見の冒頭で「重力波を観測したぞ!」と叫び、喜びを表していました。
宇宙や物理に多少関心のある私は、このニュースを興味深く読んでいたのですが、ふと
「観測したぞ!」というのは英語でどういう動詞を使ったのだろう?
という疑問を持ちました。
find?
observe?
track?
identify?
さっそくABCニュースのホームページで会見の様子を見てみたところ、
"We have DETECTED gravitational waves. We did it !"
と言っていました。(下記リンク先、1分30秒あたりです)
なるほど。そこで"detect"を英英辞書で調べると、「簡単には見つからないものを、特別の方法や道具で見つける」というニュアンスがあるのですね。
ところでNHKの記事には「叫んだ」とありますが、映像を見るとまったく叫んでいません(汗
むしろ興奮を意識的に抑えた口調で、学者らしい冷静さを演出していたように思います。つまらないことですが、やはりなんでもオリジナルに当たることは意味があるな、、、と実感しました。
"include"を「含む」と訳していいケースは少ない
Asian countries including Japan...
big companies including GE and IBM...
といった文章をよく目にします。
この including を「含む」と訳して
「日本を含めたアジア諸国」
「GEやIBMを含めた大企業」
としても誤訳ではありません。
でも実はだいぶニュアンスが違うんですね。
なぜなら、日本語の「含む」には、典型例ではないもの、例外的なものまでを含めて、というニュアンスがあるので、「◯◯を含めて」という時の◯◯は、オマケというか小さい存在、「まず第一には思い浮かべない存在」であるのが普通です。
「電子書籍を含めた新刊点数」(普通は「新刊点数」に電子書籍を含めない)
「ネットも含めた各種メディア」(「各種メディア」に当然ネットが含まれるならこうは書かない。逆に「テレビも含めた各種メディア」という文には多少違和感がある)
一方で、英語の"include"は上記の「含めて」とまったく同じ使い方をすることもあるのですが、それより圧倒的多くは「典型例」「代表例」を示す時に使われるんですね。
だから冒頭の英文は、そのニュアンスにこだわって訳せば
「日本などのアジア諸国」
「GEやIBMを代表とする大企業」
となります。
逆に、冒頭の訳のように
「GEやIBMを含めた大企業」
という書き方だと
(普通ならGEやIBMが「大企業」に含まれるかどうかは微妙だが、ここで言う「大企業」にはこの二社も含んでいますよ)
というニュアンスを読み取って、???と違和感を感じる人もいるでしょう。
私はずっとこの"including"を「含む」と訳しながら、なんだかモヤモヤした気持ち悪さを感じていたのですが、こうした違いをハッキリと理解できたのは
『英単語のあぶない常識』山岡洋一(ちくま新書)
を読んだおかげです。(上記の説明はすべて同書の受け売りです)
この本はタイトルがすこし残念なのですが、「日本語と英語で意味の範囲がちがうため、ニュアンスのずれた翻訳がまかり通っている言葉」を30以上取り上げて、見事に分析した名著です。その一部を示すと
・AS WELL ASは「〜と同様に」か
・EXPECTは「期待する」か
・INDEEDは「実際」か
・SEVERALは「数個」か
・SIMPLYは「単純に」か
などなど・・・
英日翻訳に関わる人なら、一読して決して損しないと思います。
英単語のあぶない常識―翻訳名人は訳語をこう決める (ちくま新書)
- 作者: 山岡洋一
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2002/07
- メディア: 新書
- クリック: 21回
- この商品を含むブログ (3件) を見る