主夫と翻訳

翻訳をしていると、日本語にするのが悩ましい言葉にたくさん出会います。検索すると、その言葉の訳語に悩んだ先人たちの声がたくさん見つかり、孤独な翻訳作業が少し楽しくなります。そして、自分もそんな言葉を残したくなりました。

翻訳者の年収

 多くの方の関心があるであろう「フリーランス翻訳者の年収」について書こうと思います。

 

 2014年、私の年収は450万円ほどでした(税引き前)。これはおそらくフリーランスとしてはまずまずだと思います。しかしその前年(2013年)は200万円台前半でした。2014年の収入が大きく伸びたのは、たまたま本の印税が三冊分まとまって入ったからです。

 2015年も400万円台の年収が得られるかといえば、可能性は低いでしょう。定期収入としてアテになる雑誌などの翻訳では年収200万がやっとで、そこに単行本のプラスアルファをどれだけ上乗せできるかで年収レベルが決まるのですが、単行本は印税なのでボラティリティ(変動幅)が大きく、読めないのです。

 したがって、翻訳の仕事で一家を支えていけるかと聞かれれば、無理ですという答えになるでしょう。自分一人ならなんとか食べていけますが・・・。

 

 大手の翻訳業界団体が2013年に実施したアンケートによると、フリーの翻訳者の年収はざっと以下のように区分できるようです(回答者は500人弱)。

 

年収300万円未満 が1/3

年収300万〜500万円 が1/3

年収500万円以上 が1/3

 

 

 翻訳業界は市場規模すらロクなデータがないので全体像が掴みづらいのですが、私が調べた範囲内では概して以下のような点が指摘できると思います。

 

1)出版翻訳よりも実務翻訳のほうが年収は高く安定している。

→ 何しろ本が売れないので、出版翻訳の翻訳料は悲惨な状況が続いています。ベストセラーが出れば一発で数千万円の印税も夢ではないですが、年間の出版点数が7万点もある現状、これは文字通り「宝くじに当たる」くらいの確率でしょう。

 一方で企業がクライアントになる実務翻訳は、実力・営業力があればそれなりの収入を得られる可能性が高そうです。とりわけ医療や特許といった専門性の高い分野では、年収1000万円プレーヤーも夢ではなさそうです。

 

2)翻訳の単価は長期低下傾向が続いている。

→ 一般に英日翻訳は「原文の英語1ワードにつきいくら」という形で料金が決まります。できあがりの日本語で「原稿用紙1枚につきいくら」という場合もありますが、これも計算すれば「英文1ワードいくら」に換算できます。

 この「英文1ワードあたりの料金」がずっと下がり続けており、現状は1ワード10円くらいが過半(翻訳会社経由の受注)のようです。一方で1ワード30円以上のケースもあり、同じ分量の英文を訳しても収入が3倍も違ってくるのが実情です。

 10年、20年前は1ワード10円を切るケースは少なかったようですが、クラウドソースや機械化など下げ圧力が大きいようです。

 

3)翻訳会社を通さず、直接受注すると単価は上がる。

→ これはまあ当然ですが、翻訳会社を経由して仕事をもらうと、元のクライアントが支払う料金を翻訳者と翻訳会社でだいたい50%ずつで分けることになります。

 したがって、クライアントから直接受注すれば、クライアント側にとって安く発注しても翻訳者にとっては料金アップになるわけです。英文1ワード当たりの単価で見ると、10円以下は全体の1/3と少なく、20円以上も20%程度とやはり高めになっています。

 なお、前述のアンケート結果では、フリー翻訳者の8割以上が翻訳会社経由、クライアントから直接受注は40%弱でした(私もそうですが、一人の翻訳者で両方のパターンがあるので合計は100%を超えます)

 

4)翻訳スピードは、一日で英文2000ワードほど。

→ 収入は「単価」×「仕事量」で決まるので、効率アップはダイレクトに収入増に結びつきます。とはいえ個人の仕事量には限界があり、だいたいプロの翻訳者は一日で2000〜3000ワード(英文)を日本語に翻訳するようです。

 一日2500ワードでワード単価を15円、週に6日間働いたとすると、年間売上げは270万円になりますね。