主夫と翻訳

翻訳をしていると、日本語にするのが悩ましい言葉にたくさん出会います。検索すると、その言葉の訳語に悩んだ先人たちの声がたくさん見つかり、孤独な翻訳作業が少し楽しくなります。そして、自分もそんな言葉を残したくなりました。

"design"には(隠された)意図がある

統計データがあるわけではないのですが、個人的な実感としてここ数年で

"design"

という言葉を見る機会が増えたような気がします。

名詞よりも、動詞としてのdesignです。

 

英語の"design"の意味としては

「デザイン」=ファッションや雑誌ページなどの色や形などを創造する

「設計」=モノやプログラムなどの構造や配置を決める

 

などがすぐに思い浮かびますが、どうも私がよく目にする"design"は

それだけでは足りないような気がするんですね。

 

気になって辞書でいろいろ調べたところ、なんとなくニュアンスがわかったような気がしました。

要するに"design"には、「誰かの〝意図・意志・狙い〟が背後にある」というニュアンスがある(場合もある)ようなのです。

これは日本語化した「デザイン」にはあまり感じられないニュアンスですね。

 

三省堂の『ウィズダム英和辞典』には四番目の語義として

──意図、もくろみ、計画、企て、構想、悪巧み、陰謀

とあります。

それが一番よく現れている表現は

by accident or by design

でしょう。

「意図してか、意図せざるか(にかかわらず)」

という意味の定型表現です。

 

また小学館の『ランダムハウス英和大辞典』には

以下のような例文がありました。

He designed to be a doctor. 医者になろうと志した
He designed his son to be a lawyer [=for the law]. 息子を弁護士にしようと思った

 

良い意図か、悪い意図かという価値判断は抜きにして

何かの計画や設計、作られたものの背後に、それを作った人の「意図」が明確にある──"design"にはそういうニュアンスがあることを知っていると、正しい訳語を選べる可能性が高まるように思います。